2月24日(土)、卒業式が挙行されました。
学校長 式辞
今年の冬の日本列島は繰り返し氷点下10度以上の寒気団に見舞われ、日本全国各地の都市部まで断続的に雪が降り、低温の道路は凍結して様々な事故に見舞われた異例の冬でした。しかし、立春を過ぎる頃から、少しずつ陽が伸び、空の色も春を思わせる暖色系へと変わって行きました。
さて、今年度本校は創立110年目を歩み、その年にこの学び舎を巣立っていく皆さん卒業おめでとうございます。今この壇上から、君たちを見ていると、ひとりひとり毅然として、逞ましく大きく育っているのを感じます。3年前の春、君たちは京都暁星高等学校の制服に身を包み、緊張気味にこの場に立っていました。聖書朗読の箇所を覚えていますね。「求めなさい。そうすれば与えられる。叩きなさい。そうすれば開かれる。探しなさい。そうすれば見つかる。」でした。この3年間、熱心な先生方の取り組みの中で、名実ともに、求め、叩き、探した日々ではなかったでしょうか。私はこの3年間の歩みを、校長室で静かに振り返るこの冬でした。この3年間は世界の動きも随分変わり、テロ・紛争・経済的な格差を伝えるニュースなど、それに従って日本のありかたも大きな変化を余儀なくされた年月だったように思います。日々のニュースを見ていると、信じられないような事件が次々に起こり、見ている私達自身も、すぐ忘れ去ってしまうほどに事件も次々とあとを絶ちません。さてこの学校の根本に「まじめ、まっすぐ」というルラーブ神父以来の伝統的な教育の在り方が引き継がれていると思います。ルラーブ神父が裁縫伝習所を開かれた頃、玄関には履物、当時は下駄だったでしょう、乱雑に並んでいるのを見られ、生徒を集めて注意され、履物はきちんとこのように並べなさいと指導されたと伝記に書かれていました。その当時から礼儀作法をきちんと教えられていたことがわかります。ルラーブ神父のあとを継がれたブルトン司教は、校訓を作り、講堂には「自尊・自知・自制」と掲げられています。この校訓を具体的な学校生活では、祈り・美化・学習の三本柱を通して、中学校生活とは違う雰囲気の中で、先生方や上級生の指導のもと、今まであまり意識しなかったことを教わりました。学校の一日は朝の登校の際の、「あはようございます」という挨拶で始まります。朝の祈り、昼の黙とう、終礼での祈りを通して、手を合わせること、自分のために、人のために祈ることを教わりました。鐘の音、授業前に先生を待つ日番の声、廊下を歩くと静かに授業を聴いている風景、職員室の出入りの一礼など、実にまじめな雰囲気です。自分の進路決定に向けて、真剣に学習している姿がありました。自分との戦いだったと思います。
また、美化指導も徹底しています。外部からの来客者が、一番驚かれる風景は、男女とも割烹着を身につけての掃除。校内を歩くと掃除のあとの雑巾が干してあります。上級生が今日の掃除で気づいたことを指示している風景などは、3年間で生徒の血肉となり、心に刻まれたことでしょう。文化祭・体育祭・ウォーカソン・クリスマスなどの行事を通して、実際に自分達で動く応用編ともいえるクラスや縦割りの班で、みんな頭を突き合わせて話し合い、計画を立て、協力体制を構築していく姿などは、まさに「まじめ・まっすぐ」の伝統的精神とブルトン司教の「自尊・自知・自制」が息づいている行動だといえるでしょう。その意味で、みんなは修行してきた3年間でした。だからこそ、みんなの心にまかれた一粒の種が芽を出し、すくすく育ってきたのです。これからは、人に安らぎを与える存在になってください。
本校はミッションスクールです。「ミッション」とは使命です。それは文字通り命を使うことです。何のために?誰のために?
みんなはこの3年間、そのことを存分に考え、体験の時を持ち、学んできたと思います。いのちは他者のために、内容のある使い方をして、初めて使命を果たすことになるのです。これまで育てて下さったご両親のために、友達のために、あなたを待っている誰かのために、そして命を授けてくださった神様のために命を使う、それがひとりひとりに課せられたミッションなのです。
今年の聖書は、「あなたたちは地の塩、世の光です」の箇所を選びました。このみ言葉は教えではありません。宣言です。君たちは「地の塩、世の光」だと宣言しているのです。塩は、人間にとって無くてはならないものです。塩を頭に浮かべて下さい。塩は主張しません。自分の姿をとかし、空しくしていると見えます。日本では清めのためにも塩を使います。光は、それと正反対で、確かな存在としてまわりを照らします。闇の中に一本のろうそくが灯されると、みんなの顔が見え、不安が和らぎ、手を取り、励まし合える。このように光は、隠されず、輝かすことによって、人々をひきつける求心的な働きをします。しかしろうそくの灯心は自分のろうを溶かしながら、廻りに光を放ちます。先行き不透明で、すさんだこの世界で、どれほど多くの人達が暗い心の闇を背負って生きているでしょうか。私達にできることには限界があります。しかし何事も学校生活で取り組んだ精神で、その人達への声かけや挨拶をはじめとして正直で誠実なかかわりが、多くの人の心に灯を灯すことになるでしょう。みんなのあり方が「地の塩、世の光」なのです。
最後になりましたが、この喜びの日に御臨席賜りましたご来賓の皆様に高いところからではありますが、お礼申し上げます。年度末で何かとお忙しい中、しかも休日にもかかわらず、本校の卒業式の時を御一緒いただき、感謝申し上げます。本当にありがとうございます。また慈愛あふれる心で、三年間支えてこられた保護者の皆さま、お子様方の卒業おめでとうございます。私ども教職員一同至らない点も多々あったと思います。どうかお許しください。この晴れの日を迎えられましたこと、皆様のお支え、ご支援の賜物と感謝しております。ありがとうございました。
これをもちまして、私の式辞とさせていただきます。
新たな一歩を踏み出す生徒たちの未来に、幸多からんことを。