校長講話 抄録

 11月29日の新聞で、「経済産業省の試算によると、福島第一原発処理費用、廃炉費、賠償費、除染費用などが、従来想定していた11兆円の2倍の20兆円を超える」と発表されました。30日の新聞には、「1986年に史上最悪規模の事故を起こしたウクライナのチェルノブイリ原子力発電所で、事故後すぐに作られたシェルターの『石棺』が、30年経ち老朽化しているので、高さ110m、幅260m、長さ160mのアーチ型のシェルターが設置された」という記事が載っていました。最終目標は、事故炉を安全に解体することですが、「解体するには、作業員の被ばくがひどすぎる」ということで、ロボット技術が確立されるまで、少なくとも数十年は全面的な解体が不可能だということでした。みなさんは知っているでしょうか。

 昨年12月にノーベル文学賞を受賞した、ベラルーシの作家でジャーナリストのアレクシェービッチさん(68歳)が、先月来日されました。ベラルーシを知らない人は地図帳で調べてみてください。

 彼女は、チェルノブイリ原発事故で被害を受けた人々の証言を集めた記録文学「チェルノブイリの祈り」で知られています。今回、東京大学での講演では、「原発事故は新しい形の戦争である。我々が考え方を変えない限り原発は続く。人間が自然と共生するための新しい哲学が必要とされている。」と語っています。アレクシェービッチさんは、2003年に北海道電力泊原発を訪れていますが、現地で「日本の原発はチェルノブイリとは違う。地震にも耐えうる設計だ。」と説明を受けましたが、その後、福島第一原発の事故が起こりました。「人間は自然を征服できないことがわかった。今後何十年も続く大惨事をどう語っていくのか。もし可能だとすれば、それは被災した人々の証言によってだと思われる。」と述べています。また、28日に行われた東京外国語大学での学生との対話では、「私は昨日福島県から戻ってきたばかりです。『チェルノブイリの祈り』という本で私が書いたことのすべてを見たというのが私の印象です。荒廃しきったいくつもの村、人々に捨てられたいくつもの家を見ました。国というものは、人の命に全責任を負うことはしません。祖母を亡くし、国を提訴した女性はその例外です。同じ訴えが何千件もあれば、人々に対する国の態度も変わったかもしれません。」と述べました。また、「明日すべての原発をストップさせることは不可能でも、何ができるかを考え始めることはできる。現在の最も重要な問題は、エコロジーだと私は思います。」とも語っています。

 11月29日の新聞に「遠い廃炉。静寂の送迎バス。疲労と緊張。一日407便、作業員を運ぶ。」という見出しが載っていました。福島第一原発の事故処理、廃炉作業が続いています。一日に6000人の作業員を送迎バスが運んでいます。福島県楢葉町から第一原発まで片道30分。始発は楢葉町発午前3時30分、最終が第一原発発午後9時45分。主に第一原発で働く6000人の送り迎え、一日407便。廃炉作業完了は30年から40年後が目標ということですが、事故処理、廃炉作業、除染作業にあたっている作業員の方々の安全を願い、私たちは祈り続けなければなりません。

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